社内飲み会でのアルハラを防ぐには?幹事・参加者の注意点
マナー・リスク対策

社内飲み会でのアルハラを防ぐには?幹事・参加者の注意点

仕事終わりの社内飲み会は、職場の人間関係を深めたり、リフレッシュしたりする貴重な時間です。しかしその一方で、近年は「アルコールハラスメント(アルハラ)」に対する意識が高まり、知らず知らずのうちに誰かを不快にさせてしまうケースも見られます。

「無理に飲ませる」「断ると場の空気が悪くなる」など、本人は冗談のつもりでも、受け手にとっては深刻な問題になりかねません。さらに企業としても、アルハラが原因でトラブルが起きれば、信頼や法的責任を問われる可能性もあります。

この記事では、アルハラの基本的な知識から、ありがちなNG言動、幹事・司会としての防止策、参加者が自衛するための断り方まで、具体例を交えてわかりやすく解説します。誰もが安心して楽しめる飲み会づくりのヒントとして、ぜひ参考にしてください。

アルハラに関する基礎知識

アルコールハラスメント、略して「アルハラ」は、職場の飲み会をきっかけに起こりがちなトラブルのひとつです。相手の意思を尊重せず、飲酒を強要するような行為や言動は、たとえ悪気がなかったとしてもハラスメントとみなされる場合があります。ここでは、まずアルハラの基本的な定義や具体的な行為について理解を深めましょう。

そもそもアルハラとは?

アルコールハラスメント(アルハラ)とは、飲酒に関して相手に不快な思いをさせる行為全般を指します。具体的には、飲酒の強要だけでなく、「空気を読んで飲め」「せっかくの場なんだから」などの圧力をかける言葉も含まれます。本人にとっては軽い冗談のつもりでも、受け手が「嫌だ」「困る」と感じた時点でハラスメントと見なされる可能性があります。

厚生労働省や各種企業ガイドラインでも、アルハラはパワハラ・セクハラと並んで防止すべき問題として扱われており、労務管理上のトラブルに発展することもあります。また、職場での立場や年齢差を利用した「断りづらい空気」のなかで起こるケースも多く、無意識のうちに加害者になってしまうリスクがある点にも注意が必要です。

アルハラは、被害を受けた本人のストレスや心身の不調、さらには職場の人間関係や雰囲気の悪化を引き起こす要因にもなります。安全で健全な職場づくりの第一歩として、まずは「アルハラとは何か」を正しく知り、全員が共通の理解を持つことが大切です。

こんな言動はNG!ありがちなアルハラ行為

アルハラは意図的に悪意を持って行われるものだけではありません。日常的な飲み会の中で「よくあること」として見過ごされている言動の中にも、多くのハラスメント要素が含まれています。

たとえば、「飲まないの?ノリ悪いね」「せっかくだから一杯だけでも」といった言葉は、相手の意思を無視する強要と受け取られる場合があります。また、「先輩が注いだお酒は断れないよね」といった上下関係を利用した飲酒の強要も典型的なアルハラです。

他にも、「全員でイッキ飲み」「酔わないと帰れないルール」などの強制的な飲み方を求める場面や、「あの人はいつも飲まないからつまらない」といった陰口も立派なハラスメント行為に該当します。

さらに、酔った上司が部下に無理やりお酌をさせたり、ボディタッチを伴う言動に発展するケースも見られます。これはセクハラと重なる危険もあり、より深刻な問題に発展しかねません。

重要なのは、「相手の気持ちを考えること」。たとえ場の盛り上がりを意識した言動であっても、相手が望んでいないなら、それは迷惑やプレッシャーになってしまうという認識が必要です。

アルハラが起こるとどうなる?会社や個人への影響

アルハラが発生すると、その場が気まずくなるだけでなく、深刻なトラブルに発展する可能性があります。被害を受けた側は、「もう飲み会に参加したくない」「職場に行きたくない」と感じるようになり、精神的ストレスや業務への支障をきたす場合も少なくありません。

また、SNSや口コミなどでアルハラの事実が拡散されたり、内部通報や労働相談に発展すれば、会社としての信頼やブランドイメージにも大きなダメージを与えるおそれがあります。企業によっては、労務トラブルや訴訟リスク、社内外での対応に追われることも現実に起きています。

加害側の社員は、意図せずハラスメントと見なされ、処分や懲戒の対象となることもあります。「酔っていた」「冗談のつもりだった」といった言い訳は通用せず、立場を失うことさえあるのです。

さらに、組織全体の雰囲気が悪くなり、若手社員の定着率低下やチームワークの崩壊など、長期的な悪影響も生じかねません。

アルハラはたった一言、ひとつの行動からでも始まります。だからこそ、個人の意識と企業全体のルールづくり、両方からの予防が不可欠なのです。

飲み会でよくあるアルハラのシーンと対応策

アルハラは、特別な状況で起きるものではありません。実際には「いつもの飲み会」で、ごく自然な会話や流れの中で発生します。悪気のない言動でも、受け取る側にとっては深いストレスになることも。ここでは、ありがちな場面ごとに、無理なく断るコツや、空気を壊さずに避けるための工夫を紹介します。

お酒を強要される・イッキを求められる時

飲み会の席で最も多いアルハラのひとつが、「お酒を断りづらい雰囲気」です。特に上司や先輩から「一杯ぐらい飲みなよ」「イッキでいこう!」と言われた場合、空気を壊したくないという気持ちから、無理に応じてしまう人も少なくありません。

しかし、自分の体調や翌日の予定などを理由に、丁寧に断ることは決して悪いことではありません。「今日は体調がよくないのでソフトドリンクにします」「明日朝早くから用事があって…」など、具体的かつやわらかい理由を添えると、相手も引き下がりやすくなります。

また、幹事や司会者が最初に「飲める方も飲めない方も自由に楽しみましょう」と一言添えるだけでも、強要しづらい空気をつくることができます。イッキ飲みの流れになりそうな場合も、「楽しむことが一番なので、ペースはご自身で大丈夫です」とフォローを入れると、安心感が広がります。

断る側も、進行する側も、「無理をさせない」ことが大前提。小さな配慮が、全員にとって快適な飲み会をつくる鍵になります。

「飲まないとノリが悪い」と言われたら?

社内の飲み会でよく聞くのが、「せっかくの会なのにノリ悪いなぁ」「少しくらい飲めば?」という軽い一言。しかし、このような発言はアルハラに該当する可能性があるだけでなく、言われた本人にとって強いプレッシャーになることがあります。

このような場合は、正面から否定したり反発したりせず、やんわり受け流すのが効果的です。「気持ちはうれしいんですけど、今日は飲めないんです」「雰囲気だけで十分楽しんでます」と笑顔で返すと、空気を悪くせずに断ることができます。

また、あらかじめノンアルドリンクを注文しておく、周囲に自分のスタンスを自然に伝えるなど、自己主張をさりげなく示しておくのも効果的です。「盛り上げ役」と「飲める人」がイコールではないことを周囲が理解し、価値観を押し付けない雰囲気をつくることも大切です。

幹事や上司が率先して「飲みたくない人は無理に飲まないでOK」というメッセージを出すことで、参加者全体の安心感が高まります。「ノリのよさ=お酒の量」ではないという認識を、職場全体で共有していくことが求められます。

「会場の空気」に飲まれない断り方のコツ

飲み会で最もやっかいなのが、「みんな飲んでるから」「空気読んで飲もうよ」という暗黙の圧力です。周囲が盛り上がっている中、自分だけソフトドリンクで過ごすのは、気が引けるという人も多いでしょう。

しかし、健康状態や体質、翌日の予定などを理由に飲まないことは、決して失礼ではありません。大切なのは、“飲まない選択”をきちんと自分で受け入れ、その姿勢を自然に伝えることです。

たとえば、「自分はもともと弱くてすぐ顔が赤くなるんですよ」「次の日も仕事なので、今日は控えておきますね」など、軽く笑いを交えながら話すと、場の雰囲気も和みます。少しユーモアを添えると、相手も深く踏み込んでこなくなります。

また、乾杯時などはノンアル飲料をしっかり持ち、同じようにグラスを合わせることで、疎外感なくその場に溶け込めます。重要なのは「断る」のではなく、「別の形で参加している」ことを示すことです。

飲み会は参加者全員が気持ちよく過ごす場であるべきです。空気に流されるのではなく、自分の意思を持ちつつ、角が立たない断り方を身につけておきましょう。

酔った上司・同僚へのスマートなかわし方

飲み会の場で酔った上司や同僚に絡まれたり、距離が近くなったりすると、対応に困ることがあります。無下にすると場の空気が悪くなりますし、相手に悪気がない場合も多いため、上手に受け流す対応力が求められます。

まず大切なのは、「距離を保ちながらも否定しない」ことです。たとえば過剰なボディタッチや同じ話の繰り返しには、「すみません、ちょっとあっちで〇〇さん呼んでるみたいです」と別の理由をつけて席を外すのが有効です。

また、お酒を勧められた場合も「ありがとうございます。でも今日は体調が万全じゃなくて」など、やんわり断るのが基本です。それでも引かない場合には、幹事や信頼できる第三者にさりげなく助けを求めるのも手です。

幹事や司会者は、特定の人に話しかけ続けるような酔客がいれば、話題を振り分けたり、席替えを促したりして、場が偏らないよう配慮をしましょう。必要に応じて水や食事を提供するなど、酔いを冷ますフォローも忘れずに。

酔った人に冷たくせず、あくまで「場全体を円滑に保つ」姿勢が大切です。距離感と柔らかな対応で、自分を守りながら場の雰囲気も壊さない工夫を心がけましょう。

幹事・主催者が気をつけたいポイント

幹事や主催者は、飲み会の雰囲気をつくる重要な役割を担っています。特にアルハラを防ぐには、あらかじめの設計や進行中のちょっとした気遣いが効果的です。お酒を飲む・飲まないに関わらず、誰もが気持ちよく過ごせる環境を整えることが求められます。ここでは幹事の立場から実践できる具体的な防止策や配慮の方法を紹介します。

アルハラを防ぐ飲み会の設計

アルハラを未然に防ぐためには、飲み会の企画段階からの設計がとても重要です。まず意識したいのは「お酒が苦手な人も楽しめる会にする」という前提を持つこと。乾杯ドリンクにノンアルコールを必ず用意し、案内文にも「飲めない方も安心してご参加ください」と明記しておくと、心理的なハードルがぐっと下がります。

また、会場選びもポイントです。フリードリンク制やソフトドリンクのバリエーションが豊富な会場、料理中心で過ごせる環境など、お酒以外の楽しみがある空間を選びましょう。席配置にも配慮し、上司や目上の人ばかりに囲まれないよう、ほどよくフラットな雰囲気をつくることも効果的です。

「イッキ禁止」「お酌の強制はNG」など、事前に社内でルールを共有しておくことも大切です。幹事が「飲みすぎ注意報」や「自由参加型にします」と一言添えるだけでも、全体の空気は大きく変わります。

楽しく盛り上がる場を作るためにも、最初の段階でお酒中心にしすぎない工夫を意識することが、アルハラを防ぐ最大の予防策です。

進行中に配慮すべき声かけやフォロー

飲み会が始まったら、幹事や司会者はその場の雰囲気を見ながら、随時声かけやフォローを行うことが大切です。特に注意したいのが、「お酒を飲んでいない人」「飲みすぎている人」へのさりげない気配りです。

たとえば、乾杯の挨拶で「飲める人も飲めない人も一緒に楽しみましょう」と明言するだけで、強要しづらい空気が生まれます。また、お酒が進んでいる席には水やソフトドリンクを配ったり、軽く料理を勧めたりすることで、酔いのペースを整えることにもつながります。

特定の人ばかりが注がれていたり、同じ人に絡んでいるような様子が見られたら、「一度全体で席替えしましょう」「他の方にも話を振ってみてくださいね」といった一言でバランスをとると良いでしょう。

酔いが回ってきた人が場を仕切り始めた時には、幹事や進行役がさりげなく主導権を戻す役割も担います。「次の企画に移りましょう」「写真を撮りましょう」など、別の流れに切り替えるのも一つの方法です。

誰か一人に無理をさせることなく、全体が自然に楽しめるような雰囲気づくりが、幹事の重要な仕事のひとつです。

飲みたくない人も楽しめる仕掛け

アルハラを防ぐには、飲みたくない人が「肩身の狭い思いをしない」場づくりが大切です。そのためには、お酒を中心に据えすぎない構成と、参加者全員が楽しめる仕掛けを準備しておくことが効果的です。

たとえば、ソフトドリンクやノンアルコールカクテルの種類を豊富にするだけでも、飲まない人にとって選択肢が増え、気分が上がります。ドリンクだけでなく、料理のクオリティや見た目にもこだわれば、「飲まなくても満足できる会」として印象が変わります。

また、ミニゲームやビンゴ、クイズ大会など、お酒に関係なく楽しめる企画を取り入れることで、飲む・飲まないに関係なく一体感が生まれます。チーム対抗の企画や「誰が一番◯◯か」などの軽い遊びも、盛り上がる要素として人気です。

司会者が「飲めない方も大歓迎です」「飲まなくても楽しめる内容をご用意しています」と冒頭で言葉を添えると、安心感も生まれます。笑顔で参加できる雰囲気こそが、アルハラ防止の第一歩です。

企業や人事部門が取り組むべき防止策

アルハラは、個人の意識だけで完全に防げるものではありません。企業や人事部門が組織としてリスクを捉え、仕組みとして予防策を整えておくことが重要です。社員一人ひとりが安心して飲み会に参加できるよう、ルールづくりや教育体制の整備が求められています。ここでは、企業として実施すべき制度や取り組みについて解説します。

ルールやガイドラインを定めておくべき理由

アルハラを防止するために、企業としてまず取り組むべきなのが「社内ルールの明文化」です。口頭での注意や場当たり的な対応では、認識のズレが生まれやすく、トラブルの火種を残してしまいます。

明確なガイドラインがあれば、「どこまでがOKで、どこからがNGか」を全員が共通認識として持てるようになります。たとえば「飲酒の強要は禁止」「イッキ飲みは禁止」「アルコールの提供は任意」など、具体的に記載することで、曖昧な判断を避けられます。

ルールは従業員だけでなく、管理職や幹事役を務める社員に対しても教育すべきです。「盛り上げ役=お酒を勧める人」という旧来のイメージを払拭し、多様な価値観に配慮できる社風をつくることが求められます。

ガイドラインは就業規則とは別に、社内マナー集やイベントマニュアルとして共有する方法もあります。重要なのは、「形式的に作る」のではなく、「実際に使われ、守られる」ものにすること。そのためにも、内容はわかりやすく、実例を交えて示すのが効果的です。

社内研修や相談窓口の整備方法

アルハラ防止を根付かせるには、定期的な社内研修の実施と、万が一のときの相談窓口の整備が不可欠です。特に管理職や若手幹事層には、「アルハラとは何か」「どんな言動が問題視されるのか」を具体的に学べる機会を設けることが重要です。

研修は座学だけでなく、ロールプレイ形式を交えると効果的です。たとえば、飲み会中にありがちな会話の例を取り上げて「これはセーフ?アウト?」と問いかけると、実感を持って理解が深まります。

あわせて、社員が気軽に相談できる窓口を用意しておくことも大切です。相談内容が社内で広まらないよう、匿名制や第三者機関を活用した外部窓口を設ける企業も増えています。通報制度に「報復禁止」などの保護方針を明示しておくことも、安心感につながります。

飲み会後のアンケートなどを実施し、当事者だけでは見えにくい感じ方の差を把握するのも有効です。アルハラ防止は一度で完結せず、継続的な教育とフォローがカギになります。

被害・加害どちらにもならないための意識づけ

アルハラは、意図せず加害者にも被害者にもなり得るものです。「悪気はなかった」「冗談のつもりだった」が通用しない時代だからこそ、全社員が“される側・する側”の両面を意識することが求められます。

加害者にならないためには、「自分は相手を気遣っているつもりでも、プレッシャーになっていないか?」という視点を持つことが重要です。たとえば、「一杯だけでも」や「せっかくの場なのに」といった言葉は、気づかぬうちに相手を追い込んでいる可能性があります。

一方で、被害を受ける側も「嫌だと思ったことは明確にNOを伝える」ことが大切です。我慢しすぎると、トラブルが深刻化する恐れがあります。断りづらい場合は、幹事や信頼できる同僚に相談するなど、早めに助けを求める手段を持っておきましょう。

また、職場全体で「誰にとっても安全な飲み会」を目指す意識づけが不可欠です。定期的な研修やアンケートを通じて、一人ひとりが自分ごととして捉えられるようにすることが、長期的な防止につながります。

「楽しい会にしたい」という気持ちが、誰かにとって負担にならないよう、思いやりと想像力を持った行動が必要です。

まとめ|楽しい飲み会にするためにできること

アルハラは、ほんの一言やちょっとした振る舞いが、誰かの心に深く残ってしまう問題です。お酒の場だからといって、何をしても許されるわけではなく、むしろ日頃の信頼関係や職場の空気が表れやすいのが飲み会です。

飲む人も飲まない人も気持ちよく過ごせる空間をつくるためには、個人の気配りだけでなく、企業全体の仕組みづくりが重要です。幹事や主催者は、配慮ある設計と進行を意識し、参加者自身も「お互いを尊重する」姿勢を忘れないようにしましょう。

アルハラを防ぐことは、飲み会の質を高め、職場の信頼感を育てることにもつながります。ルールとマナーを守りながら、笑顔で終われる会を目指しましょう。